【ダンサーのためのボディメンテ vol.3 】痛めやすいポイントを知って予防したい!ダンサーに多いケガ
INDEX
ダンサーなら考えておきたいケガについて
身体を資本に表現するダンスは、スポーツと並んでケガがつきものであり、日頃からその予防とケアを徹底して行っていかねばなりません。本格的なレッスンに入る前のストレッチやウォーミングアップは、身体を温め、可動域を広げて表現性と技術の向上につなげる目的でも行いますが、深刻なケガを防止するという重要な目的ももっています。
ですから、まず十分なストレッチを行ってからスタートすること、身体と心を十分に準備し、集中力を高めた万全の状態でレッスンを始めることが、上達とケガの予防のため、何より大切なこととなります。
しかし十分な準備を心がけていても、ダンス中にケガをしてしまうケースは少なくありません。ケガを経験して成長する部分ももちろんありますが、治療に時間を要すれば、筋力もスキルも、身につけた感覚も急速に衰えてしまいますから、発生は最小限に抑えたいところです。
ケガや痛み、障害を抱えているのに無理をして踊り続け、ついにはダンスそのものが続けられなくなってしまうほど症状を悪化させてしまうケースもあります。そのような手遅れになる前に正しく対処すべきであり、ダンサーは自身の身体の声に常に耳を傾け、適切にケアをして扱えるようにならなくてはなりません。
そこで今回は、ダンサーに多いケガについて学び、どんな動きに注意が必要なのか、どんなケガや障害がなぜ発生するのか、それらのリスクとどう付き合っていくべきなのか、詳しく解説していきます。楽しくダンスライフを続けるためにも、ぜひ参考にしてください。
どんなケガが多い?なぜ起きる?
ダンスジャンルによっても、多いケガは異なりますが、ヒップホップダンスをはじめとするストリートダンスの場合、上肢のケガは少なく、主に下半身が問題となってきます。とくに初心者の場合、重心を低くする動きが求められる一方で、しっかりとした踏ん張りを支えられる筋力・体幹が鍛えられていないために安定感がなく、必要以上の力や偏った負荷が特定の場所にかかってケガにつながるケースが多くなっています。柔軟性がケガの多さ、少なさにつながっていることもしばしばですね。
しかし、それ以上にケガとの関係でポイントとなっているのは、「正しい動きでできているかどうか」です。練習を継続するために一定程度避けられないケガや故障ももちろんありますが、多くは踊り方や姿勢、重心移動などに問題があり、そこに由来するものとなっています。ここから、多いケガを部位別に詳しくみていきましょう。
意外に痛めやすいポイント、首
頸椎椎間板ヘルニア
ほとんどが下半身と先述しましたが、ヒップホップダンサーなどの場合、例外的に上半身で多いのは首のケガです。首を激しく動かす運動を繰り返していると、頸椎椎間板ヘルニアになるケースがあります。負荷だけでなく、年齢や遺伝的素因なども関係する疾患であるため、動きに原因があるとは限りませんが、注意が必要です。上肢のしびれや痛み、脱力感などがあったら、これを疑いましょう。上を見上げる動作や咳、くしゃみをした時に痛みが強くなる場合、より可能性が高いといえます。放っておかず、早めに医療機関で相談しましょう。
首のアイソレーションで、ケガをすることも多くなっています。左右や前後に独立させてリズミカルに動かす動きは定番ですが、これを首の根元を動かす第7頸椎付近を使って無理に激しく動かすようにして行っていると、首はもちろん、肩や背中まで広範な部分の故障につながります。練習時は身体が振られるような動きになっていないか、リラックスして頭だけをうまくずらす動きとしてできているか、注意して行いましょう。
ダンサーにはつきもの?腰と膝の痛み
ぎっくり腰、腰椎椎間板ヘルニアなど
ヒップホップに特徴的な動きでは、腰を落として大きく回したり、前後させたりする腰部の動きもあります。この動きも重心移動が正しくできていない場合などで、しばしばケガにつながるもので注意が必要です。ヒップホップダンス以外のジャンルでも、腰痛を抱えているダンサーは多く、ダンサーに代表的なケガ、故障といえるでしょう。着地がうまくいっていない、体幹が弱いなど要因はさまざまですが、いわゆるぎっくり腰を繰り返すケースもしばしばです。
とくに激しい腰痛に続き、大腿から下腿、足にかけて電気の走るような痛みがある場合は、腰椎椎間板ヘルニアを疑います。痛みやしびれ感の場所は圧迫される神経がどこかで違ってくるため、断言することはできませんが、40代くらいまでの比較的若いダンサーでよくみられるため、気になる場合は医師に相談しましょう。ほかに腰痛では、背骨の下の仙骨と骨盤の関節が原因となる仙腸関節障害が多いケガとして知られています。
シンスプリント、捻挫、骨関節炎など
膝まわりは、ダンサーのケガが多い代表的部位です。足さばきが正しくできていなかったり、筋力が弱いのに過大な負荷がかかり続けたりした場合に、筋肉の付着部である骨膜に負担がかかり、炎症を起こして脛骨過労性骨膜炎を起こすケースが多くなっています。シンスプリントとも呼ばれるこの症状は、内くるぶしから脛の内側にかけての痛みが顕著になるのが特徴です。本番前で練習量が急に増えたり、フロアの素材が変わったりした時などにも起こりやすいので注意し、リスクが高まっていると感じたら、練習後のダウンやアイシングをより丁寧に行うなど、ケアを徹底してください。
激しいステップを踏んでいる場合は、膝関節捻挫を起こすこともあります。とくに内側足幅靱帯損傷はダンサーに多く、この場合、膝の内側に腫れや痛み、皮下出血が生じます。腫れがさらに膝関節全体に及び、痛みで曲げ伸ばしも難しい状態となっているなら、前十字靱帯や半月板を痛めている可能性もあります。軽くみて放置せず、速やかに治療しましょう。
膝に限らず、無理に関節を引きのばしたり、過度に負荷をかけて使いすぎたりすると、骨関節炎などを生じることがあります。ダンス後に強い痛みがある場合、こうした関節炎が疑われ、放っておくと症状が進行して関節がどんどん硬くなり、悪化する危険がありますから、無理に動かしたり、自己流でマッサージをして済ませたりせず、医療機関に相談してください。
疲労骨折
日々の練習における反復運動のやり過ぎでは、同じところに過度な負荷がかかり続けて起こる疲労骨折もあり得ます。ダンス以外のスポーツでも起きるものですが、ある運動でかかった負荷が骨の内部に少しずつ微細な骨折を生じさせ、本来ならば自然修復でカバーされるところ、限界を超えて継続されるために修復が追いつかず、さらに次の微細な骨折が重なって疲労骨折となるのです。目立った皮下出血や大きな腫れがないため、見過ごしてしまうこともありますが、軽い腫れ、押さえた時の不自然な痛みなどがある場合、疲労骨折が疑われます。
最大の注意ポイント、足
一番多いのが捻挫
膝以上にケガが多いのは、足首をはじめとする足部分ですね。高校生ダンサー700人に実施したアンケート調査では、全体の13.7%、約7人に1人は足首捻挫を経験しているとの結果も報告されています。素早いステップやアレンジを加える場面、新しい技に挑戦している時、ジャンプ後の着地シーンなど、足首をひねって痛めてしまうことは多くあります。
ダウンでは足裏つま先にしっかりと重心を置く、サイドステップなどではとくに注意して足の親指にポイントを置き、足裏外側やかかとで着地しないようにするといったことが、予防の観点で重要です。内側にひねる内反捻挫と外側にひねる外反捻挫がありますが、多くは内反捻挫で、前距腓靱帯を損傷しているケースがしばしばみられ、きちんと処置を行わないと足関節の不安定な状態が残ってしまうこともあります。
身体の軸が意識できていないアップダウン、ターンでのバランスを崩した転倒などでも、足の捻挫や靱帯損傷は発生しやすく、注意が必要です。正しい動きと姿勢を常にチェックして行い、異常を感じたらすぐに対処しましょう。
アキレス腱炎、肉ばなれ、鵞足炎、ハンマートゥなど
ほかに足の痛みでは、踵とアキレス腱部が痛むアキレス腱炎や、ストレッチ不足による肉ばなれ、膝の内側下部分などが痛む鵞足炎(がそくえん)などもダンサーによくみられます。
足に合わない靴で練習を続けていると、足指を痛め、ハンマートゥと呼ばれる変形を生じるケースもあります。痛みがあったり、皮膚の盛り上がり、赤みの発生などがみられたら、無理にきついものを履いていないか靴の選択を見直したり、専用パッドで保護するなどの処置をとったりするようにしてください。
外で練習していたり、フロアで激しい動きを繰り返して過度な摩擦が生じたりすると、皮膚の一部がすりむけ、擦り傷を負うこともあるでしょう。日常的な小さなケガ、傷ではありますが、感染症など悪化するリスクもあるため、軽視せず、できるだけ早めに消毒をし、創傷部を保護するなどしておきましょう。
まとめ
いかがでしたか? 初心者の場合はなかなか正しい動きを身につけられないことなどから、中・上級者ではハードな動きを繰り返すことなどから、身体のさまざまな部位にケガや故障を抱えやすくなります。
運動としてケガのリスクをゼロにすることはできませんが、多いケガの特徴や予防法を知っておくことで、発生のリスクや頻度を減らしていくことが可能です。ケガを最小化する丁寧なストレッチやケア、正しい重心・姿勢の動きは、ダンスのパフォーマンスを向上させ、上達の近道にもつながるものとなります。身体についての知識も深めながら、ぜひ健やかで楽しいダンスライフを実践してください。