ダンスと筋肉、どこをどう鍛えるべき?
ダンサーが考えたい筋肉のこと
ダンスを習い始めたばかりの方はもちろん、少しずつ慣れてきた方にとっても、上達するにはどうすればいいか、ワンステップ上へ行くには今の自分に何が足りないのかという問いは、常に意識される大きな問題・課題でしょう。より美しく踊りたい、高度な技術も身につけたい、そうした向上心を持ち続けることは、まずとても大切なことです。
この大きな問いに対する答えはさまざまですが、ダンスの場合、振りや技の習得に並んで重要なこととして、踊れる身体をつくること、ダンスに最適な身体づくりに日々努めることがあります。一流のプロダンサーをみれば一目瞭然ですが、みなしなやかで美しく、自在に操れる身体をもっているでしょう。全身を用いる運動であり、表現・創作活動であるダンスは、究極、自らの身体ひとつで勝負するものですから、これを磨かずして先へ進むことはできないのです。
ダンスといえば、人並み外れた柔軟性がまず注目されやすいポイントですが、実は筋肉も非常に重要です。筋肉といっても、スプリンターやボディビルダーのような、目立ってムキムキのかたい筋肉はもちろん必要ありませんが、美しい姿勢やポーズをキープしたり、素早いステップ・動作、激しさ、やわらかさなど多様な印象を与える表現的な動きをなめらかに、自在に行ったりするためには、思う以上に筋肉の働きが欠かせません。
ではダンサーにはとくに、どの部位の、どんな筋肉が必要であり、どう鍛えていくことが望ましいのでしょう?今回はそうした筋肉をめぐる話をお届けします。
筋トレは必要?不要?
ダンスに筋トレは必要かということは、しばしば議論になるところです。ダンス練習を実践していれば、自然に必要な筋肉がついてくるので、それ以上は不要、一般的なトレーニングで、かたく大きな筋肉を育てすぎると、かえって柔軟性が損なわれ、自在に動かすことが困難になると主張する人もあります。
しかし、あくまでもそれは“やり過ぎ”で、不要な筋肉をつけるトレーニングを対象とした話をしているからであって、ダンスに筋肉は不要、必要な筋肉を鍛える意味がないというわけではありません。重要な基本姿勢をしっかりとるための筋肉、軸をぶれさせないで技を美しく決めるのに必要な筋肉、そうした筋肉は積極的に鍛えていくことが必要です。
もちろん、実際に踊っていく中でも使う筋肉は鍛えられていきますが、必要な筋肉がしっかり身についていれば、厄介な癖やけが、深刻な故障の発生を未然に予防することができ、新しい技に挑戦する時の成功・習得までの距離を最短化することもできるようになります。ダンスの吸収と実践に最適な身体づくりという観点からメニューを組んだ筋トレは、やはり大きな意味をもつもの、重要視すべきものといえるでしょう。
鍛えるべき部位はどこ?
では、ダンスにはどの部位の筋肉を鍛えれば良いかですが、重要度という点で差はあれど、シンプルに回答すれば、やはり全身運動ですから「全身」ということになります。それでは答えになっていない、どうすればいいか分からないといわれるかもしれません。ですが全身をバランス良く鍛え、しなやかな筋肉をつけることこそ大切であり、さまざまな動きに対応できるダンサーの身体をつくることにつながるのです。
このダンサー向けな全身の筋肉を鍛える上で、まず意識すべきなのが体幹です。体幹とは、まさに字の如く身体の幹になる部分、背骨、肩甲骨、肋骨(胸郭)、骨盤にそれらの周囲を取り巻く胴体筋肉全体を指します。
こうした胸部や腹部、背中、腰まわりは、姿勢をキープしたり、四肢を使ったダイナミックな動き、細やかな動きなど多彩な動きを支える基盤になって働いたりする部位です。手だけ、足だけが鍛えられていても、支える幹の胴がぐらぐらとしていては、思うように動かすことはできません。ですからダンサーは体幹を鍛えなければならないのです。
左右の前腕と左右のつま先を床につけた4点とし、腕立て伏せをするような姿勢をとって身体をまっすぐに保ち、そのままキープする「フロントプランク」は、体幹を総合的に鍛えられる代表的なエクササイズです。30秒程度から始め、徐々にキープする時間を長くしたり、ひねる動きを加えたりと負荷を増しながらトレーニングしてみてください。
他に「サイドプランク」や、仰向けになって伸ばした足を上下させる「レッグレイズ」、同じく仰向けになったら膝を立て、膝と身体のラインが一直線になるようにお尻を上げて維持する「ヒップリフト」なども効果的です。また、ピラティスは体幹運動でできていますから、日常のエクササイズにその動きを取り入れてみるのも良いでしょう。
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重視したいインナーマッスル!
体幹の場合、表面の筋肉もその内部、奥深くにある筋肉も、両方が含まれていますが、しなやかな柔軟性のある筋肉、よりダンサー向けの筋肉に育てていくという観点では、表面の表層筋以上に、深層部にある筋肉、インナーマッスルを重視するのがポイントになります。
インナーマッスルは、主に姿勢の細かな調節や、関節の動きをサポートする働きをしており、ひとつひとつは小さな筋肉ですが、内側の筋肉における安定性や、内臓を正しい位置に保って活動させることにも寄与するなど、重要な役割を担っています。一見、細く見えても、しなやかに引き締まっていて美しい、なめらかに自在に動く優れたダンサーのボディは、このインナーマッスルがとくに強化され、発達した身体になっているのです。
インナーマッスルが鍛えられると、基礎代謝もアップし、痩せやすく太りにくい身体にもなっていきます。一般的な筋トレでは鍛えにくいのが難点ですが、先述のプランクやヒップリフト、さらにクランチやスクワットなどを、ゆっくりスロートレーニングで実践すれば、アプローチしやすいとされています。ぜひ実践してみましょう。
優先順位はある?
このほか、ダンスジャンルによってとくに鍛えておくことが望ましい部位もありますが、とくに優先したい部位として共通するのは、腹筋です。前面の腹直筋、肋骨から骨盤にかけて斜めに走る腹斜筋、背骨から横を通る腹横筋、この3つを体幹にも含まれる腹部筋肉として意識して鍛えると、上半身と下半身のスムーズな連携、素早く力強いキレのあるダンス動作、高いバランス能力による安定した動きを得られるようになります。
腹筋に続いて重要とされるのが、背筋です。うつ伏せの姿勢から、ゆっくり息を吐きながら上体を起こすトレーニングなどで幅広く鍛えておくことがお勧めです。勢いをつけたり、素早く動かしたりするのは逆効果で、腰を痛めてしまう場合もありますから注意しましょう。
ヒップホップダンスなどでは、とくに足腰を重点的に用いるため、スクワットなどのトレーニングも適宜行っていくと有効です。自分の体重をしっかりと支えることができ、重心移動をスムーズに、軸をぶれさせず、美しく踊れるような身体づくりを目指してください。
知っておこう!筋肉のタイプ
筋肉の質についても、少し解説しましょう。筋肉には大きく分けて3つのタイプがあり、これらはそれぞれ、ATPを生み出すミトコンドリアやミオグロビンを多く含む「赤筋」、酸素を運ぶミオグロビンが少ない「白筋」、その中間で白筋がミオグロビンやミトコンドリアをもつように変化した「ピンク筋」と呼ばれるものとなっています。
赤筋はゆっくりと収縮し、細い筋線維で持久力を発揮します。遅筋とも呼ばれ、一度に出す力は弱いものの、有酸素系の代謝ができるため、マラソン選手などが育て、多くもっている筋肉になります。ダンサーには、特別多く必要ではありません。
一方、白筋は素早く収縮し、太い筋線維で瞬発的な力を出すことができます。重量挙げや短距離スプリンターが代表的に多くもつタイプで、キレのあるダンス、アクロバティックなダンスや激しい動作、俊敏性が求められる技には、この筋肉が重要となるでしょう。しかし持久力に欠けるため、この筋肉ばかりでもダンサー向きではありません。
最後のピンク筋は、白筋が筋トレなどを通じて中間的な性質をもつようになった、オールマイティーといえる筋線維の筋肉です。持久力もそれなりにあり、瞬発力も高い柔軟性のある筋肉として、ボクシング選手などが多くもっています。ダンスバトルやダンスコンテストなど、本格的に踊っていくなら、とくにこのピンク筋を鍛えておくことが重要ですね。
まとめ
いかがでしたか。ダンスの上達には、それを支える地道な身体づくりが欠かせません。筋トレは、ダンスにおいて高いパフォーマンスを発揮させ、美しく、大きく振りをみせるだけでなく、けがや故障の予防にもつながるものとなります。
普段の生活やダンスの振り付けレッスンだけでは鍛えにくい筋肉を、じっくり育てていきましょう。筋肉痛になりやすい部分など、自分で弱いと感じている部位があれば、そこから始めていくのも有効です。無理をしすぎないよう注意しながら、自分の身体づくりに向き合っていってくださいね。
(画像はPixabayより)
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