【ダンサーのためのボディメンテ vol.1 】疲労を速やかに取る!ベストパフォーマンスへの基礎知識
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ダンスは、見た目以上にハードな全身運動です。キレとスピード感のあるダンス、アクロバティックなダンスだけでなく、優雅な動きで魅せるダンスもまた、美しい姿勢の維持や動きのコントロールに、たくさんの筋肉や関節を使っています。
そこで、今回はダンサーが知っておくべき身体のケアや、ケガを防ぐために気をつけておきたいことを『ダンサーのためのボディメンテ』シリーズとして、3回にわたってお届けします!
ダンスによる疲労、筋肉痛にはどう対処する?!
ダンスを始めたばかりで、これまで日常生活ではあまり使っていなかった筋肉を積極的に使うようになったタイミングや、大きな発表会・コンテストなどへ向け、いつも以上に負荷の大きい追い込み練習を重ねている時、またさらにレベルアップしたダンスを可能にする身体づくりを目指して筋力トレーニングを重点的に行っている時などは、大きな疲労を感じやすいでしょう。
適度な運動は、肉体的にも精神的にも、日常のストレス疲労を軽減させ、その実践そのものが心身のリフレッシュ効果をもちますが、ある程度以上の負荷をもった運動になると、肉体は消耗し、疲労を起こします。なんだか身体が重い、だるい、集中できないといった症状や、激しい運動を行った後、しばらくして感じる筋肉痛などは、誰しも経験のあるところでしょう。
常にベストな状態でレッスンや本番に取り組み、最良のパフォーマンスを発揮していくためには、この運動と疲労に関する基礎知識を身につけ、賢くセルフコントロールしていくことが大切です。全身運動であり、身体をめいっぱい使って表現するダンスは、何をおいても『身体』が資本です。できる限りベストな状態をキープすることも含め、より良く踊れる身体づくりもダンサーとしての基礎力、問われるスキルのひとつといって過言ではありません。
そこで今回は、ダンスなど運動で生じる疲労のメカニズムとその回復方法、ケアについて解説していきます。
筋肉の疲労メカニズムを知る
運動による肉体の消耗では、主に筋肉の疲労が発生します。同じ動作を繰り返したり、長時間強い強度で用いたりなど、過度に使用したことで疲労が蓄積され、筋肉痛となるわけですが、まずは原因を知るため、そのメカニズムを少し詳しくみていきましょう。筋肉痛が発生するような場合、身体においては何が起きているのでしょうか。
乳酸の生成による疲労
筋肉が疲労し、痛みを感じる原因としては、主に2つの説が有力となっています。1つは乳酸の生成などが関係するものです。運動をすると、筋肉は要求に応じて激しい伸縮を繰り返します。この収縮運動にはエネルギーが必要であり、そのエネルギーは筋肉に蓄えられている糖質の一種、筋グリコーゲンが分解されて、ATP(アデノシン三リン酸)となることによって産生されています。
この筋グリコーゲンを分解する際に、同時に生まれるのが“乳酸”で、乳酸はゆったりとした有酸素運動より、激しい瞬発的な運動、無酸素性の運動でとくに多く作り出されることが分かっています。乳酸はただ生まれて蓄積されるのではなく、ミトコンドリアで酸化して、再びエネルギー源として消費されますが、この消費ペースを上回って生成が進むと、残りが身体に溜まっていくようになります。
かつてはこの乳酸の蓄積こそが疲労の原因とされ、乳酸=疲労物質ともいわれていましたが、最近の研究では、乳酸の生成過程で生ずる水素イオンによってやや体内が酸性になることと、エネルギーの源である筋グリコーゲンの蓄えが少なくなってしまうことが筋肉疲労の直接原因ではないかという説が、主流になってきています。
筋線維の損傷による痛み
もう1つは、筋肉や筋線維の損傷によるとする説で、運動の衝撃や収縮活動であちこちに小さな断裂が起こり、組織がそれを再構築しようとする際に、一種の炎症を伴うため痛みとして感じられるというものです。トレーニングや練習で筋肉が育つのは、実はこの損傷と再構築による結果なのですが、その過程で生じるヒスタミンやセロトニン、ブラジキニンといった物質は、筋肉を覆う線維体を刺激し、疲労や痛みの知覚を生むのです。
一般に筋肉と呼んでいる骨格筋は、筋線維というタンパク質のひも状のものが寄り集まってできていますが、まとまった運動負荷がかかると、このひもを形作る一部がバラバラになり、血液中に流れ出してしまいます。これが筋肉の壊れ、損傷の正体です。筋肉は一時的に傷んでしまいますが、壊れた組織を治そうとする私たちの身体にもともと備わった力により、その素となるアミノ酸をたっぷりと取り込んで、より太い筋線維にして回復させようという働きが起こるのです。
この現象は「超回復」といい、トレーニングの成果を効率よく引き出す重要なポイントとなりますが、そこにいたるまでの段階には、筋肉疲労としての炎症と痛みもあるとみられています。
なお、実際の疲労は個人差も大きく、さらにさまざまな要因が重なり合って発生していると考えられますが、およそこうした現象が体内で起きているのだと理解しておけばよいでしょう。
回復を促すために何ができる?
さて、こうした原因で起こる筋肉疲労ですが、十分な回復を促さないままさらに練習やトレーニングを重ねると、身体の回復機能が追いつかないまま、残った疲労が蓄積されて慢性疲労の状態を引き起こしてしまいます。こうした状態を続けると、十分なパフォーマンスが行えなくなるのはもちろん、長期の休養を必要とするような事態にまで陥ってしまうケースもあります。ごく軽いレベルでも、筋肉痛の痛みや引きつりで階段が辛いといったことが起こるように、日常生活や運動に支障が出ることは経験からすぐ理解出来るでしょう。
ゆったりストレッチも有効
では、どうすれば速やかな回復を図れるのでしょうか。まず、ストレッチなどの軽くゆっくりした運動を行うことが有効です。疲れているからじっと動かさないでいる、休ませるといえば使わないことと考えがちですが、筋肉の場合、むしろゆっくり伸ばすことで血流が改善され、酸素や栄養がすみずみまで行き渡りやすくなって、疲労の回復が早められるのです。
もちろん、さらに筋肉にダメージを与えるような運動になってはいけません。縮んで硬くなった筋肉をほぐすように、片あぐらでゆっくり前傾姿勢をとったり、手で支えながら背筋を伸ばしたり、ごく軽いストレッチを意識して行いましょう。疲れにくい身体づくりにも効果的ですし、リラクシング効果で良質の睡眠をとれるよう導いてくれるメリットもあります。
とくに激しいダンスを行った後などは、筋肉の温度も大幅に上昇していますから、それ以上のエネルギー消費を抑えるためにも、まずアイシングで筋肉温度を下げることも有効です。このアイシングも、ストレッチなどの軽い運動と組み合わせて行うのがより効果的とされていますので参考にしてみてください。
しっかり栄養を補給しよう!
疲労を生じさせる運動では、当然ながらエネルギーが多く消費されています。人間は食品から炭水化物やタンパク質、脂質、各種ビタミン類などを体内に取り込み、生命維持や運動に必要な生体エネルギーを作り出していますが、消費すればそれだけ補給分を増やしてあげることも必要ですね。
次の運動に備える修復活動にも、多くのエネルギーが要求されます。必要な栄養が不足すれば、体内のエネルギー産生回路がうまく回転せず、より強い疲労を感じやすくなり、回復も阻害されることとなってしまいます。早めに栄養を補給しましょう。
タンパク質やビタミン類をバランスよく
それでは、どんな栄養を積極的に摂取すると良いかですが、壊れた筋肉を再構築する素として利用される“タンパク質”はとくに重要です。食品では肉や魚、大豆製品が多く含んでいますね。またエネルギー源となる糖質も重要で、これは主に主食となる米などの炭水化物から摂ることができます。
タンパク質や糖をエネルギーに変換させる回路では、ビタミンB1やビタミンB6などのビタミンB群、ビタミンC、パントテン酸、亜鉛などのビタミン・微量元素が消費されますから、これらも十分に補給しなければなりません。
ビタミンB1は豚肉やアスパラガス、ビタミンB6はニンニクや牛レバー、ビタミンCは緑黄色野菜や果物、パントテン酸は鶏レバーや納豆に多いなど、いずれも食品から摂取できますが、基本的には多く含んでいるものをあれもこれもと考えるより、バランスの良い食生活を整えることがお勧めです。
その上で、ダンスなど運動による消耗が激しいシーンには、適宜サプリメントを有効活用して補うようにしましょう。疲労の回復には、クエン酸の積極的な摂取も有効とされます。
運動後30分以内の栄養補給が理想?!
筋肉疲労を防ぎ、超回復とも呼ばれる筋肉の育成や速やかな回復を促すには、タンパク質を中心とした栄養を、運動後30分以内に補給すると、とくに効果が高いことが分かってきています。
しかし、この疲れた直後ともいえるタイミングで、バランス良く食事から多くの栄養を補給するのは、なかなかに困難ですね。そこで生み出されたものにプロテインがあります。
手軽かつ速やかに十分な量のタンパク質と糖を摂取でき、吸収率をアップさせるビタミン類などもしっかり含まれていますから、これを飲むことで疲労の回復を早め、筋肉痛を長引かせることなく、パフォーマンスをアップさせる筋肉を効率よく育てられるでしょう。近年、アスリートに欠かせないものとしてプロテインが話題となっているのは、こうした効果が期待できるからなのです。
市販のプロテインには、実にさまざまな種類とタイプがあり、粉末を溶かして飲むものが主流ですが、手軽なゼリー飲料タイプもあります。味のバリエーションも豊富になっているので、自分が飲みやすいものを選ぶとよいですね。
また、プラスの目的別として、脂肪の燃焼を促す組成となっているものや、運動によって多く消費され、アミノ酸の中でもとくに疲労回復の観点でしっかり摂取したいグルタミン酸を強化含有したもの、先述のクエン酸を付加したものなども多く出てきています。自分の身体状況と相談しながら、これらもうまく活用するとよいでしょう。
まとめ
いかがでしたか?このほかにも入浴や適度なマッサージを行うと、血流の改善やリラクシング効果で疲労を回復させやすくなります。普段から十分な睡眠・休息と規則正しい生活で、疲れにくい身体、健康な身体状態を保つことはもちろん、運動後の適切なケアはベストなパフォーマンスを引き出すために欠かせません。
正しいケアの方法を知り、自らコントロールしながら実践することも、大切なダンサーとしての上達を目指す練習の一環、トレーニングのセットと考え、最適な方法を探っていきましょう。
【ダンサーのためのボディメンテシリーズ】
vol.2はこちら >> ダンスは練習あるのみ… ではなかった?
vol.3はこちら >> 痛めやすいポイントを知って予防したい!ダンサーに多いケガ