なってから後悔したくない!ダンスのケガを予防しよう
ケガはダンサーなら避けられない?
ダンスはレベルやジャンルにより、その強度に違いはあるものの、全身運動による表現であり、ひとつのスポーツとして身体を資本とするものです。そして、だからこそケガがつきものであり、長くダンサーをやっていればケガや故障を経験しない人はいないでしょう。
しかし、深刻なケガを負ってしまうと、その後のパフォーマンスに悪影響を残したり、場合によっては日常生活にまで支障をきたしたりすることになりかねません。賢いケガの予防と速やかな対処は、ダンスを長く続ける秘訣であり、技の練習と並ぶ上達の秘訣といっても過言ではないでしょう。ケガについて正しい知識をもち、上手に予防とケアを行いながら自分の身体と付き合っていくことができてこそ、ワンランク上のダンサーになることができます。
そこで今回は、事前にできるケガの予防法と考え方について、実践的観点から解説していきます。ぜひこれを参考に、日々のダンスライフをより健やかで充実したものにしていってください。
予防の基本!原因から対策を考える
ケガを予防するには、まずダンスでよく起こるケガの原因を知っておくことが大切でしょう。ケガはどれも単一の原因によるのではなく、さまざまな要素が複合的に働いて発生します。しかし中でも主因となるものはそれぞれにあり、ダンス中のケガの主原因は2つに大別できるでしょう。1つは技のやり方によるもの、もう1つはボディケアの問題によるものです。
技のやり方としては、そもそも実践する際の動きが正しくない、姿勢や重心の動かし方が間違っている、教わった通りに行えておらず自分の悪い癖が染みついてしまっているといったことがケガを誘発していることがしばしばあります。技を美しくみせるためにも、無用なケガを予防するためにも、動きは丁寧にさらい、ひとつひとつ正しく身につけるようにしましょう。適当に楽な解釈へと流れるのではなく、正しいフォーム、正しい動きをしっかり確認して繰り返すこと、これが上達とともにケガの予防にもなることをよく覚えておいてください。
独学で学んだり、アレンジを加えたりする際には、自分の筋力や骨の成長、スキルに見合わない無理な振り付けになっていないか、注意することも大切です。初心者や子どもは、なかなか自分で判断することが難しいケースも多いでしょうから、やはりプロのアドバイスを受けながら実践していくことをお勧めします。
大きなイベントの本番前やクラス分けテスト時など、より早く上手になりたい、完璧に踊りこなしたいと思うあまり、急激に練習量を増やしてしまうケースがみられますが、これもケガの原因となりやすいところです。慣れない練習量の多さに身体がついてこず、思わぬケガにつながったり、同じ動きを継続し続けた結果、疲労骨折を起こしたりしてしまう危険があるのです。
ある程度、練習量が増えるのは当然でも、それが過度になっていないか注意し、コンディションを整えながらダンスを仕上げていくことが、ケガ予防の観点からみて大切になります。ケガで思うようなパフォーマンスができず、実力を出せなくなっては元も子もありません。後述する疲労をためないケアとともに、計画的な練習で取り組むようにしましょう。
念入りに行うべきウォーミングアップ
さて、もう1つのボディケアに関する問題ですが、こちらは疲労のため込みや活動に際しての準備不足がケガにつながっていると考えられ、予防はダンス前後のストレッチを中心としたケア、日頃の体調管理がポイントになります。以下、詳しくみていきましょう。
まず、練習や本番に入る前、動く身体の基礎準備として、ウォーミングアップを念入りに行うことは、ケガを未然に防止するための非常に重要なポイントとなります。ウォーミングアップとして軽い動きから身体を慣らしていくと、徐々に血行が良くなり、隅々にまで血液循環が行き渡って、運動に適した体温がつくられます。身体の温度が上昇することで、関節付近や筋肉も温まり、硬い状態から柔軟な状態にほぐれていきますから、スムーズな曲げ伸ばしや着地などによる衝撃のしっかりとした受け止めが可能となり、ケガを予防することができるのです。
周囲の温度が低い冬場は、とくに丁寧なウォーミングアップが求められます。2018年にはDA PAMPの「U.S.A.」における“いいねダンス”が流行し、忘年会などの余興としても人気になりましたが、寒い中、ほとんど準備運動も行わず、ノリで踊ってしまったためにアキレス腱断裂やぎっくり腰といったケガを負う人が続出しました。
日頃、運動不足な人が急にチャレンジしたことも、もちろん大きな要因ですが、冷えた硬い身体、筋肉で踊ったことが大きなケガにつながったと考えられています。日々の練習で活動的な身体をつくっていても、通常モードから活動モードへと切り替えるウォーミングアップはきわめて重要です。最初はゆっくり、徐々に心拍数を上げて軽く汗ばむ程度の運動で身体を温め、血流をアップ、筋温も上昇させておくようにしましょう。
きちんと事前のウォーミングアップが行えていれば、ケガの予防になるだけでなく、動きの質が良くなり、関節や筋肉を大きく柔軟に使ったパフォーマンスができるようになります。そうした面でも大いにメリットが見込めますから、面倒がらずしっかりと行ってください。
ダンス前後にはストレッチをしっかり!
ダンスを行う前、また終えた後のストレッチも重要です。レッスンには必ず組み込まれていると思いますが、自主練習でも必ず行いましょう。ウォーミングアップとともに、ケガをしにくい柔軟な身体をつくり、血行を良くする効果があります。
血流が悪い状態では酸素や栄養も行き届きにくいため、疲労が蓄積されやすいものともなってしまいます。疲労はパフォーマンスレベルを低下させるだけでなく、ケガと故障のもとになります。ストレッチは、疲れにくく、回復しやすい身体をつくるのに有効ですから、結果としてケガのリスクをさらに下げることができるのです。
緊張をほぐしてメンタル面を整えたり、姿勢を美しく改善したり、より可動域を広げていけるといったメリットもあります。上達の近道であり、ケガの予防にもなると意識されれば、自然と重点的に取り組めるようになりますね。
ストレッチには、分類としてスタティック(静的)ストレッチング、ダイナミック(動的)ストレッチング、バリスティックストレッチングの種類があり、また自分1人で行うセルフストレッチングと、チームやパートナーで行うペアストレッチングの種別があります。
ダンス前には、ダイナミックストレッチングとバリスティックストレッチングを、ダンス後にはスタティックストレッチングを中心に行います。基本的にはセルフストレッチングでOKですが、1人では伸ばしきれない筋や関節まわりをより柔軟に伸ばしたいシーン、疲労がとくに蓄積しているシーンでは、ペアストレッチングが有効です。コミュニケーションを深める面でもプラスに働きますから、オーバーストレッチにならないよう注意しながら、ペアストレッチングも適宜取り入れてみてください。
ダイナミックストレッチングでは、大きく腕や足を動かしながら、伸びている部位を意識し、実際のダンスにつながる動きも取り入れながらストレッチを行います。バリスティックストレッチングは、動的に反動をつけながら伸長していくタイプのストレッチで、アキレス腱を伸ばすなどします。反動を用い、瞬発的に動く身体の準備をさせる強いストレッチになりますから、ウォーミングアップの後、本番の動きを始める直前に行うのが良く、運動後のクールダウンには向きません。また、十分に身体が温まっていない状態で行うと、かえって筋線維を傷めてしまうこともありますから、注意しましょう。
スタティックストレッチングは、ひとつの動きに10~30秒くらいをかけ、ゆっくり静的に筋肉を伸ばすストレッチです。息を吐きながら、呼吸を整えることと緩んでいく筋肉の感じに集中し、丁寧に行います。ダイナミックストレッチングに入る前、および運動後のクールダウンで実施し、ケガや疲労の蓄積、筋肉痛などを予防します。
クールダウン時のストレッチは、運動で傷ついた組織の修復を促したり、バランスのとれた柔軟性を回復させられるほか、疲労物質を速やかに分解・排出させたりすることに効果が期待でき、次の運動にもきちんと備えられるようになる大切なものです。練習を終えて「疲れた~」とすぐに休んでしまうのではなく、必ず行う習慣をつけてください。
日常生活にも気配りを
体調管理やケアもケガ予防として大切です。運動後はクールダウンのストレッチに加え、とくによく動かして熱をもっている部分があれば、アイシングを行いましょう。軽く水で洗った氷を袋に入れ、タオルで巻いて熱い部分にあて、冷やします。ケガをした時の応急処置でも、「RICE」といわれる、Rest(安静)、Ice(アイシング)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)でアイシングを行いますが、酷使した筋肉、組織のケアにもアイシングが有効です。
当然のことですが、健康な身体を維持しておくことも、ケガと障害の予防に重要であり、ダンサーならば日頃から気をつけたいところです。規則正しい生活を心がけ、睡眠はしっかりとりましょう。疲労回復や筋肉組織の再生に関わるホルモンなども、眠っている間に放出されて働きます。睡眠不足は練習時の集中力低下にもつながるため、さらにケガのリスクを増すことになりかねません。緊張する本番前日なども、できるだけゆっくり休息をとるように心がけてください。
ミネラルと同時に十分な水分補給を行うこと、また身体づくりに重要な栄養バランスを考えた食事の摂取に努めることも大切です。アミノ酸や、疲労回復に効果が期待できるクエン酸、血液や筋肉をつくるタンパク質、エネルギーのもととなる糖質などは、アスリートの食事で重視される主な栄養素ですが、ダンサーの食事でも、とくに不足しないよう積極的に摂っておきたいものになります。バランスの良い食生活を基本に、これらの栄養素を上手く補いながら、良好なコンディションを保ちましょう。
なお、アルコールは水分補給にはならず、むしろ利尿作用で脱水状態を引き起こしやすくなります。飲酒しながらはもちろん、アルコールが残った状態でダンスをするといったことは避けるようにしてください。
疲労感や体調不良がある場合には、無理をせず“休む”決断をし、回復に努めることもケガ予防、深刻な障害の発生予防として重要です。練習しなくては、と焦る気持ちもよく分かりますが、身体の声にしっかり耳を傾けられてこそ、優れたダンサーにもなることができます。今すべきことを見定め、賢く行動しましょう。
まとめ
いかがでしたか。「こんなのは当たり前」と感じることも多かったかもしれませんが、これら基本を徹底することで、多くのケガを予防することができます。
ほかにも、ちょっとした隙間時間でできるストレッチやエクササイズを行い、柔軟性の向上や身体の軸の矯正、安定感のある重心のとり方などを身につけていくことなどでも、ケガの予防とパフォーマンス力のアップを目指すことが可能です。
どうしても筋肉が硬い時、ストレッチで補えない不安がある場合には、テーピングやサポーターも適宜用いると良いでしょう。身体コンディションにより敏感に、正しいケガ予防の知識を身につけて、素敵なダンスライフを続けてくださいね。
(画像はフリー素材ぱくたそより)
体作りには欠かせない!ボディメイクプログラムがあるスタジオはこちら!
DANCE WORKS